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田森くんは西へ Index page へ

vol.025 台湾 (3)

 

おお、中島、何でおまえは中島なんだ! 中島、道の端で片足をどぶに落としてもがいています。

「何やっとんねん!」

私と田島、同時に叫びました。

「おい引っ張ってくれ、早うひっぱてくれ」  

女の子とかやり手バーさん、通りすがりのお客まで立ち止まって見ています。中島の周り、どぶの臭いが立ち上ってきます。彼この日のためにちょっといい格好をしてきていたのですが、台なしです。白い綿パンに白い靴、Tシャツに白い綿のジャケット。  

田島が後ろから脇の下を持って、私が落とした左足を持って引っ張り上げました。足がどぶから抜けるときに強烈な臭いがあがってきました。  

中島君無惨な格好になっています。上半身は前のままなのですが、右足にはどぶの黒い泥が飛んだ跡が転々と残っています、左足は膝からしたが真っ黒、特にすごいのが左の靴、泥で衣をつけたようになっていて、まるでミッキーマウスの靴です。それにくっせー!  

ここで私たちは上がる店が決まってしまいました。彼が落ちたどぶの、前のお店しか私たちには選択の余地がありません。お店の横手の水道で中島を洗いました。と言っても私がホースを持って彼の左足に水をかけただけですが。  

しかしこの騒ぎで女の子たちにもやり手バーさんにもかなり受けは良くなったよ うです。  
一応泥も洗い落とせて、靴も洗いました。お店にあがれる態勢にはなりました。 早々と田島は相手を選んだようです。中島も、彼は一見お坊ちゃん風でしたから、タオル持ってきてくれた感じのいい女の子に決まったようです。  

私は、さあ私はどうしたらいいのでしょうか。もともと、暇つぶしに付いてきただ けです。最終目的地はインドです。金ありません。でも「どぶ落ち事件」でホース用意してくれた気の強そうな、ちょい年増の人と仲良くなってしまいました。  

私気の強そうな子は嫌いではありません。でも左腕にぶら下がられても、私としては非常に困るわけでして。しかし腕振り払うわけにもいきませんし。左の肘が女の子の胸に当たってます。や、柔らかい。

「おい田島、台湾ドル予備持ってるか。俺2日間の台北滞在費くらいしか両替してないから今金ないねん」

田島が余分な金持ってなければ、待合室のイスで待つつもりでした。