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田森くんは西へ Index page へ

vol.028 香港 (1)

 

基隆から香港への船はさすがに沖縄航路と違い、国際航路を運行している客船という感じがしました。私は2等の下の方のクラスであったのですが、6人部屋の2段ベッドの部屋でした。シャワートイレは共同でしたが、鍵はちゃんとかかるしお湯は出るしで、関西汽船と比べると雲泥の差がありました。関西汽船が宇高連絡船なら、スワイヤーはあこがれのハワイ航路くらいの差はありました。  

指定された部屋へ行くと、日本人の学生が3人いました。3人とも青学の学生で海外旅行関係の同好会のメンバーでした。軽くお互い会釈して、軽いジャブの応酬です。  

今も昔も変わりませんが、見知らぬ旅行者同士が会うと、相手がどの程度できるか値踏みの応酬になります。「どうも、どうも」と言いながら、相手の経験、年齢、これからの予定などを探り合って、自分と比べればどのレベルなのかを瞬時に判断するわけです。

「私ら、名前、中村、田中、小林です。先輩は?」
「田森です、関西からですわ。」  

彼ら3人とも一年生で今度の4月で二年生、私より二年下です。台湾までは私たちと同じようなルートを通ってきてました。東京から沖縄へそこで乗り換えて基隆へ、ほとんど私と同じ頃日本を出てきたのですが、石垣島には降りなかったので台湾を一回りしてからこの船に乗り込んできたのです。  

うっ、海外旅行の経験では負けたけど学年では勝ちました。くだらねーけど一応先輩であります。唯一勝ったのは今は一人旅だと言うことです。

「先輩は香港何日くらいですか。」

中村が聞いてきました。3人の中では一番ふけ顔で、しかも顔だけではなくしっかりしてるようでした。

「5日ほど、あとはインドですわ!」

この一言でぐっと格が上がったような気がしました。この頃のインドは日本から非常に遠いところでしたから。

「そうですか、私達はこのあとバンコックへ行ってシンガポール止まりです。」  

そう言えば私香港での宿の情報は持ってません。YMCAが九龍半島の先端にあるからそこがどえらく安くはないけどまあまあだ、とは聞いていました。

「ところで自分ら、香港でどこ泊まる?YMCAくらいしか思いあたらんのやけど。」

中村 「倶楽部の先輩が去年の12月泊まったとこが安いです、永安旅行社と言うんですけど、旅行会社と安宿と両方やってるところで、大部屋で蚕棚みたいな所に泊まるようですが安いみたいです。」

私 「船、香港に着いたら一緒に連れていってくれへんか。YMCAより安そうやん」